日本ナレッジ・マネジメント学会アート部会
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第25回KMSJアート部会研究報告書
【日時】平成24年9月29日(土)18時〜20時30分
【場所】小石川後楽園涵徳亭日本間(JR飯田橋5分)
【出席者】3名(小野瀬、堀田、谷澤)
【研究テーマ】「長寿企業と伝統芸道・武道の共通項について」
 
T.長寿企業の条件に関する研究
【発表者】小野瀬 由一(KMSJアート部会長)
【発表概要】
1.後藤俊夫著『三代、100年潰れない会社のルール』論点整理
1)国別長寿企業ランキング
 社歴200年を超える長寿企業は世界に7,212社ある。うち日本は3,113社(45.3%)で世界トップ、第2位はドイツの1,563社 (21.7%)である。それ以下は、第3位がフランスの331社(4.6%)、第4位が英国の315社(4.4%)と桁違いに少なく、伝統ブランドを誇る イタリアは第7位で163社(2.3%)である。
2)長寿企業大国日本の秘密
 長寿企業の内部要因としてはマネジメント・システムの蓄積がある。すなわち、複式簿記・連結会計管理制度、人事管理・教育制度(江戸時代の寺子屋など教 育制度の発達と識字率の高さ)、危機管理としての家訓・家憲の文書化や準備金の蓄財などである。
一方、長寿企業の外部要因としては市場経済の長期的拡大がある。すなわち、江戸時代200年間平均0.1%成長の実現、江戸は世界最大人口100万人都 市、18世紀初頭世界初先物市場として大阪堂島米市場があり、首都への権力+財力+人材の集中や材料・技能+消費の蓄積が起り、商家・商人は自己変革し長 寿企業となり、これが地方伝播へも伝播した。
長寿企業には、家業の継続発展を目指す強い意思が存在し、また、明治憲法(昭和22年まで続く)では家督を制度化し、長子相続制+養子制度が導入されたこ とがリスクマネジメントの機能を発揮した。
家業の継続発展には時代の精神を捉える経営思想が必要であり、「正当な利潤は武士の禄と同じで、全く恥ずべきではない」とする「石田梅岩の石門心学(仏教 +儒教+神道の融合)」が経営思想として江戸幕府にも採用された。
3)長寿企業のタイプ
 長寿企業のタイプは、@原点維持タイプ(守)、A持続的成長タイプ(破)、B創造的破壊タイプ(離)がある。
4)ドラッカーのファミリービジネス生き残りの「5つの鉄則」
@自社で働く一族関係者には、少なくとも一般従業員以上の能力と勤勉さを求める。
A同族以外の幹部登用を意識的に行い、研究開発、マーケティング、財務など専門知識にある幹部陣容を揃える。
B少なくとも一名は同族以外から経営陣を登用する。
C承継の判断を部外に委ねる。
D一族がファミリービジネスに貢献する姿勢が重要。
5)ファミリー企業の失敗パターン
@公私混同型 A隠ぺい内向型 B管理者不在型 C一族内紛型 D老衰型 E後継者不在型
6)長寿企業の持続的成長戦略
@ビジョン(VISION) A優位性(DOMINANCE)B統治(GOVERNANCE)
Cリスクマネジメント(RISK MANAGEMENT)D長期的関係性(RELATIONSHIP)E承継計画(SUCCESSION)
 
2.帝国データバンク編『百年続く企業の条件』論点整理
1)老舗企業
 日本は百年以上続く老舗が約2万社ある「老舗大国」である。
老舗企業の77.6%には「家訓・社是・社訓」あり、その特徴は「カ・キ・ク・ケ・コ」である。すなわち、「カ(感謝の気持ち)」「キ(勤勉)」「ク(工 夫)」「ケ(倹約)」「コ(貢献)」である。老舗企業が多い業種は小売業(百貨店など)で、老舗企業比率が高いのは醸造業(酒造など)である。
2)老舗企業の財務状況
 帝国データバンクデータベース「COSMOS2」収録約125万社のうち、100年以上の業績を重ねる企業の中から業績書を入手した老舗企業1913社 の営業収益は50億円未満が6割を占めている。
 また、老舗企業は全業種企業に対し売上高営業利益率が低いにかかわらず売上高経常利益率は高く、受取利息が支払利息を上回っているなど金融収支が良い、 保有株式が多く受取配当などを多額に受け取っている、駐車場収入や家賃収入など雑収入として営業外収益に計上している状態が想定される。
 
3.久保田章市著『百年企業、生き残るヒント』論点整理
1)創業年代別長寿企業数
 東京商工リサーチのデータによると、現在生き残っている百年企業(宗教法人除く)は20,788社である。創業年代別では、奈良時代以前創業6社(世界 最古の会社「金剛組(578年創業)」「世界最古の温泉法師温泉(718年)」など)、平安時代創業10社、鎌倉時代創業5社、室町時代創業44社(「八 丁味噌(1337年)」「虎屋(1526年)(小西酒造(1550年)」など)、安土桃山時代創業65社(「松井建設(1586年)」「住友金属 (1590年)」「養命酒(1602年)」など)、江戸時代創業3,446社(「松坂屋(1661年)」「三和銀行(1656年)」「SS製薬(1765 年)」など)、明治時代創業17,212社(「NTT(1869年)」「丸善(1869年)」「サッポロビール(1876年)」など)となっている。
2)業種別百年企業
 業巣別の百年企業数及び企業数割合は、第1位小売・卸売業、第2位製造業、第3位建設業の順となっている。
3)長寿企業の秘訣
長寿企業の秘訣は、伝承(変化させてはならないもの)と革新(時代に対応して変化させること)を有していることである。伝承の仕組みは、「顧客第一主義」 「本業重視の経営」「堅実経営」「品質本位」「製法の維持・継承」「従業員重視」「企業理念の維持」などである。また、革新の仕組みは、「商品・サービス に関する顧客ニーズへの対応」「時代の半歩先を行く」「販売チャネルを時代に合わせて変更」「本業の縮減を前提とした新規事業の確立」「家訓の解釈を時代 に合わせる」などである。
 
4.考察
企業継続のためには、経営資源であるヒト・モノ・カネ・スキル・ノウハウなどを伝承させる仕組みの構築と仕組みを革新するヒトの育成が重要である。
 伝統芸道・武道の形と場の構築は企業に置き換えると仕組みの構築といえる。各道における段位取得プログラムはスキル向上プログラムであるが、技術向上プ ログラムだけでなく精神向上プログラムも組み込まれていることが「道」といわれる由縁であり、企業の人材育成にもこの視点によるプログラム構築が求められ よう。
 今回は、本研究部会の研究目的である「グローバリゼーションが進展する今日の企業環境において、日本企業が自らの特質を活かして世界市場で生き延び続け るためには、日本人が有史以来伝承してきた土俗的伝統文化や渡来文化の学習により花開いた日本伝統文化の芸道や武道の価値と有用性を再認識し、日本伝統文 化の特性を活かした日本型経営が日本企業の強みとなり得る」という仮説検証について、日本の長寿企業にスポットを当て、その共通項を探った。
 その結果、「伝承と革新」のための仕組み構築という点では伝統芸道・武道と長寿企業に共通項があることが判明した。今後はこの仕組みを動かしていくため のヒトの育成プログラムの構築とその運営方法についての研究を継続する。
 
【参考資料】
@後藤俊夫著「三代、100年潰れない会社のルール」(プレジデント社)
A帝国データバンク編「百年続く企業の条件」(朝日新書)
B久保田章市著「百年企業、生き残るヒント」(角川SSC新書)
 
U.長寿企業と伝統芸道・伝統武道の共通項での論点について
【発表者】KMSJ会員 谷澤 一平
【発表概要】
1.はじめに
長寿企業の定義は、長年に亘り経営理念を尊重し業績を維持し持続している企業である。
法政大学教授坂本光司著「日本で一番大切にしたい会社」を参考に、中小企業が長期に持続し、真に世のため人のためになる経営に取り組み価値ある企業になる ための要点を明らかにしたい。
2.会社経営とは
 会社経営とはステークフォルダ―5人に対する使命と責任を果たすための活動である。
@    社員とその家族を幸せにする
A    外注先・下請企業の社員を幸せにする
B    顧客を大切にする
C    地域社会を幸せにし、活性化させる
D    自然に生まれた株主の幸せ
以上の順番を間違えないこと。
組織トップの資質と決断は、「儲かるか儲からない」や「他社に勝つか負ける」という視点ではなく、それが「正しいか正しくないか」「どんな決断をすること が社員のためn、地域社会のためになるのか」等の正義感・倫理観によって判断すべきである。
3.経営で一番大切なのは「継続」
会社経営で一番大切なのは継続であり、これが社会的使命である。業績や成長は継続するための手段に過ぎない。
4.経営が上手くいかない理由は社内にある
 問題は社外ではなく社内にある。他力本願の5つの言い訳は、「景気や政策が悪い」「業種・業績が悪い」「規模が小さい」「ロケーションが悪い」「大企 業・大型店が悪い」である。
5.中小企業にしかできないことがある
 大企業がやらないような、数の少ない仕事、納期が短い仕事、スピードが速い仕事、試作的・開発的な仕事にチャンスがある。
6.「日本で一番大切にしたい会社」企業事例
・日本理化学工業株式会社:昭和12年設立(ダストレスチョーク国内シェア30%、従業員50名のうち7割が障害者)
・伊那食品株式会社:昭和33年創業(創業以来48年増収増益、寒天メーカー国内シェア80%、食品以外に化粧品、医薬品等)
・中村プレイス株式会社:昭和49年創業(石見銀山の麓の辺鄙な場所、義肢装具メーカ、世の中のため、人のために役に立つ)
・株式会社柳月:十勝の菓子メーカー、人と人、心と心を結ぶ経営
・杉山フルーツ:冨士市、成熟フルーツのネット販売
・株式会社冨士メガネ:北海道の眼鏡メーカー、お客様を待たせない、難民メガネ(社会貢献)
・医療法人鉄蕉会亀田総合病院:病院+付加価値サービス、天国に一番近い霊安室
・株式会社埼玉種畜牧場サイボクハム:農業のディズニーランド
・株式会社アールエフ:長野の医療機器メーカー、世界最小機器開発企業、飲みこめる内視鏡カメラ
・株式会社樹研工業:愛知の精密部品メーカー、金型等の自製で超精密部品に特化したオンリーワン企業
【参考文献】
・坂本光司著「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)
 
(文責:小野瀬由一)


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