日本ナレッジ・マネジメント学会アート部会
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第17回KMSJアート部会報告書
【日時】平成23年5月14日(土)17時〜19時30分
【場所】小石川後楽園涵徳亭洋間(JR飯田橋5分)
【出席者】7名(眼龍、小野瀬、谷澤、堀田、八代、前原、三井)
【研究テーマ】「香道の知から学ぶKM戦略」
【配布資料】
「香道の歴史と知から学ぶKM戦略」(小野瀬)
【発表者】
小野瀬由一(アート部会長)
【発表概要】
1.香道の知から学ぶKM戦略
1.香道の歴史と知からの学び
1)香道の歴史
・香道に関する日本の歴史上の記述は「日本書記」の沈水淡路島漂着(595)が始まりである。 ・その後、奈良時代に東大寺「正倉院棚別目録」盧舎那物に最高品質香木として黄熱香(蘭奢待)・全桟香(紅塵)の記録がある。
・平安時代には、公家の高貴な嗜みとして「薫物」が用いられ、日本国内の梅(春)・蓮(夏)・菊(秋)・落葉(冬)+侍従+黒坊が六種(むくさ)として、 その調合方法が『薫物類抄』などに伝書化された。
・鎌倉時代、近江国の守護佐々木道誉(婆佐羅)が香木を収集した。香木の種類は、六国五味:伽羅(ベトナム)苦香、羅国(タイ)辛香、真南蛮(インド南 西)甘香、真那賀(マレー半島)鹹(からい)香、佐曽羅(不明)酸香、寸門多羅(スマトラ)酸香があった。
・室町・北山文化時代、公家・武家に香合が流行し、六十一手香、百二十種香・二百種香など多くの香を持つことが公家・武士階級の権威の象徴でもあった。
・「香道」は、室町・東山文化時代の御家流香祖三条西実隆、志野流香祖志野宗信に始まるとされている。
志野宗信は天皇の勅命により「名香合せ」を行ったとの記録あり。
・江戸時代、香伝書として志野流建部隆勝『香道秘伝書』(1669)、菊岡沾凉『香道蘭之園』(1737)、牧文龍『香道賤家(しずがやの)梅』 (1748)がある。この時代、聞香、闘香から香組(十火圭香、十種香)、古十組、新十組、三十組、五十組へ展開し、今日の香道の礎となっている。
・明治維新を経て香道は低迷期に入る。
・大正時代、水原翆香『茶道と香道』(1908)、杉本文太郎『香道』(1929)が刊行。森鴎外『阿部一族』(1012)に主人公討ち入り前夜に髪に名 香「初音」を焚き込み覚悟の討死の描写あり。つまり、香は潔さと儚さの美の極まりとする。
・平成時代、現御家流宗家堯水公彦、現志野流宗家蜂谷宗玄が香道文化活動として海外展開を始めている。
2)香道の知
・「香道」の本質は香と人が一つになる境地であり、香を当てるのでなくいやでも当たってしまうのが理想。
・「組香」は香の美と文学の美の重なり合いとして教養である。

2.香道の知とKM戦略に関する考察
(1)香道の知に関する考察
1)香道の場(エリア)
・香道の場は、・仏教寺院→・公家→・武家→・家元→・茶室を経て、今後・一般化への展開が期待される。
2)柔道の型(モデル)
・香道の型は、・飛鳥時代、仏教の「焼香」(香道の源流)→・平安時代、公家のもてなしとして「薫物・香袋」→・室町(北山文化)時代、公武合体による遊 びとしての「香合・組香」→・室町(東山文化)時代、家元による「闘香」→・江戸時代、茶室の「茶香」が大成。
3)香道の革新
・香道の革新は、江戸時代に禅思想「自然と芸術の一体化」との融合により「茶香」を生む。
 しかし、儒教+陰陽五行説、文明開化、芸術展開、海外展開などはなかった。
4)香道の伝承
・家元秘伝→家元師匠による技術追及と技術の秘伝化。
しかし、他の芸道に見られる、同朋衆による技術伝承、家元流派による伝承拡大、学校による技術普及などはな かった。

(2)香道の知から学ぶKM戦略に関する考察
1)香道のKM
・「香道」とは、香と人がひとつになる境地である。
・香道は、祈りの場から公家・武家の雅遊びの場へ、そして、家元によるおもてなしの場まで展開したが、その後の一般化、芸術化、国際化への展開は出来てい ない。
2)香道の形式化
・室町時代、御家流(香祖三条西実隆)や志野流(香祖志野宗信)が天皇の勅命香による「名香合わせ」を行い、秘伝書による形式化が始まった。
・江戸時代、志野流建部隆勝『香道秘伝書』(1669)、菊岡沾凉『香道蘭之園』(1737)、牧文龍『香道賤家(しずがやの)梅』(1748)など香道 伝書の完成をみたが、仏教・儒教など宗教思想との融合が少なく、家元の秘伝化により、「道」としての形式化が未発展であった。
3) 香道の伝承
・香道の師匠・家元による秘伝化のため、流派・学校・芸術による一般化や海外展開が遅れた。

4)香道の知から学ぶKM戦略
・香道の歴史と知からの学びは失敗例としてKM戦略であろう。
・香道の出発点は仏教の焼香だったが、公家・武家の香道は遊びとしての「香合・組香」として展開したため、一般化・芸術化・国際化への場の展開はなかっ た。
・今後、香道が世界的に発展していくためには、香道の思想体系の深堀りと香道技術の体系化が求められよう。
・また、香ビジネスは、香水、室内香、演出香など生活演出道具として著についたばかりであり、日本の香道をバックグラウンドとしたビジネス展開も大いに期 待できるところであろう。
【参考文献】
・北小路功光・北小路成子著「香道への招待」平成16年8月発行、淡交社
・神保博行著「香道の歴史事典」平成15年6月発行、柏書房
・太田清史著「香と茶の湯」平成13年3月発行、淡交社
・杉本文太郎著「増補改訂香道」昭和59年8月発行、雄山閣出版
・淡交ムックゆうシリーズ「香りと遊ぶ」平生10年12月発行、淡交社
・NPO法人香道と日本の雅文化会WEB(http://www.kodo-miyabi.org/index.html
(文責:小野瀬由一)



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