記
第9回KMSJアート部会報告書
日時:平成21年11月20日(金)18時〜20時30分
場所:小石川後楽園涵徳亭日本間(JR飯田橋5分)
研究テーマ:日本美術の歴史と知からの学び
配布資料:日本美術の歴史と知の類型
出席者:小野瀬、星、眼龍、谷澤、堀田、八代、矢沢(7名)
発表者:小野瀬 由一(KMSJアート部会長)
発表概要:
1.日本美術の歴史と知からの学び
1)日本美術の歴史
・日本美術の歴史は、飛鳥時代の仏教渡来(538)を契機に建立された現存する世界最古の木造建築
“法隆寺”(607)の仏像“釈迦三尊像”、壁画“弥勒菩薩など浄土図”に始まる。
・奈良時代の代表的な美術には、薬師寺の壁画“吉祥天図”、東大寺の大仏“東大寺盧舎那仏”がある。
・平安時代には、代表的な絵巻物として“源氏物語絵巻”(国宝)、“信貴山縁起絵巻”(国宝)、“判大納言絵詞”(国宝)がある。
戯画として鳥羽僧正作とされる“鳥獣人物戯画”がある。
建築として“平等院鳳凰堂”、“中尊寺金色堂”などがある。
庭園として“浄土式庭園”がある。
・鎌倉時代には、似顔絵として禅僧頂相の作とされる“
伝・源頼朝像(神護寺)”、絵巻物として“佐竹本三十六歌仙絵巻”、仏像として運慶作“金剛力士像(東大寺)”がある。
・南北朝・室町時代には、足利幕府による文化支援のもと、足利義満山荘「鹿苑寺=金閣寺」(北山文化)、
足利義政山荘「慈照寺=銀閣寺」(東山文化)が建設され、武家の美術鑑賞の場として会所(掛軸+唐物)が
建設され、会所には床の間(掛け軸+花瓶+唐物)や書院造(襖絵・屏風絵)が作られた。この時代の代表的
な画として雪舟の水墨画、禅宗障壁画として大徳寺襖絵狩野永徳(松栄長男)作“花鳥図”
“琴棋書画図”、狩野松栄(元信三男)作“瀟湘八景図”“竹林猿虎図”がある。
・安土桃山時代には、信長・秀吉の城郭・天守閣障壁画、御用絵師狩野永徳作“唐獅子図屏風”、
長谷川等伯作“松林図屏風”がある。城郭建築として「姫路城(天守閣)」「二条城(書院造)」などがある。
・江戸時代には、御用絵師狩野探幽作“春景図”、土佐光起作“三十六歌仙図屏風”、琳派絵師俵屋宗達作
“風神雷神図屏風”、尾形光琳作“紅白梅図屏風”、酒井抱一作“夏秋草図屏風”がある。また、浮世絵の開祖
とされる風俗絵師岩佐又兵衛作“婦女遊楽図屏風(松浦屏風)”(国宝)がある。
建築では、回遊式日本庭園の傑作“桂離宮”がある。
文人画として与謝野蕪村作“鳶烏図”(俳画)がある。
写生画として円山応挙作“雪松図屏風”、伊藤若冲作“群鶏図”がある。
版画(浮世絵)として菱川師宣作“見返り美人”、喜多川歌麿作“婦人図”、
葛飾北斎作“富嶽三十六景”、歌川広重“東海道五十三次”などがある。
・明治時代は、ウィーン万国博覧会(1873)へ日本画家が公式参加し欧州美術界へ「ジャポニズム」として影響を与えた。
明治9(1876)年には「工部美術学校」、明治22(1889)年には「東京美術学校(開校時岡倉天心校長)」が設立され、後に「工部美術学校」出身者
による「明治美術会」と「日本美術院」が結成された。
一方、この時代は海外留学組の黒田清輝らのよる洋画運動、竹内栖鳳らによる新しい民族美術としての日本画の確立があった。
明治28(1895)年には日本初の美術館「奈良国立博物館」が建設された。
・大正時代には、日本画として上村松園作“序の舞”、土田麦僊作“舞妓林泉”などがある。
洋画としては、
岸田劉生作“麗子像”、梅原龍三郎作“狩野川”、佐伯祐三作“郵便配達夫”などがある。
・昭和時代には、洋画として小磯良平作“働く人 ”、平山郁夫作“月光楼蘭行き”などがある。
日本画としては、
奥村土牛作“鳴門”、東山魁夷作“月明”などがある。
・平成時代には、千住博などが新しい日本画作品を発表している。
2)日本美術の知の類型
・日本美術の歴史から生まれた日本美術の知の類型は以下のとおりである。
(1)法隆寺等仏教寺院仏像にみられる飛鳥・白鳳様式
(2)中世美術の絵巻物・大和絵にみられる吹抜屋台の一点透視法
(3)室町時代の画体・画題の和漢融合
(4)パトロンは中世の武家から近世の町民へ
(5)美術鑑賞の場は、中世・近世の会所・茶室から近代は美術館へ
(6)明治維新「ファイン・アート」導入から「廃仏毀釈運動(神道国教・祭政一致運動)」への揺り戻しと欧州留学組による新日本美術の確立
(7)大正新興美術運動を契機に、ロシア未来派・ダダなど前衛美術運動、シュールリアリズム・プロレタリア美術へ展開
2.日本美術の歴史と知から学ぶKM戦略
以上の日本美術の歴史と知から学ぶKM戦略として以下が重要と考える。
1)「場」について
日本美術の「場」は以下にように整理できる。
・古墳・奈良時代の古代美術の場として遣唐使らによる寺院仏像・壁画
・平安時代の中世美術の場としての絵巻物・大和絵
・鎌倉時代の仏師らによる禅芸術への展開
・室町時代の美術鑑賞の場としての会所・茶室
・安土桃山・江戸時代の絵画表現の場としての城郭障壁
・明治時代以降の美術吸収の場としての欧州留学
・明治時代以降の美術鑑賞の場としての美術館・美術展
・昭和時代以降の美術評価の場としての海外コンクールへの出品
2)「型」について
・古墳・奈良時代の仏像の型としてのアジア伝来の飛鳥・白鳳様式
・平安時代の中世美術の型としての絵巻物・大和絵にみる一点透視法
・室町・安土桃山時代の日本美術の型としての和漢融合
・明治時代の維新による日本美術の型としての和洋融合
・大正・昭和の日本美術の型としてのファイン・アート導入と新日本美術確立
3)「革新」について
・奈良・飛鳥美術にみる天皇による仏教崇拝と仏教建築の普及
・平安美術にみる仮名+絵巻物
・鎌倉美術にみる禅文化の導入
・南北朝・室町美術にみる禅精神を背景とした芸道の発展
・安土桃山美術にみる城郭芸術の発展
・江戸美術にみる幕府鎖国令による日本美術の成熟化
・明治美術にみる維新による洋風化
・大正・昭和美術にみる大正新興美術運動と戦後復興へ
4)「伝承」について
・天皇の人心支配のための美術利用
・公家の遊興(文化消費)としての美術鑑賞
・武家の嗜みとしての美術鑑賞
・将軍の権力誇示のための絵師の囲い込みと工房化
・版画による美術の複製
・画家の海外留学
・官製美術館・民間美術館による収集・展示
・美術品の海外交流
3.意見交換
・西洋美術はBC8世紀都市国家のギリシャ美術、古代ローマ美術、AD5世紀以降の東ローマ帝国のビザンチン美術、13世紀以降のフランスを中心としたゴ
シック美術、14世紀から16世紀のイタリアを中心としたルネッサンス美術、17世紀頃のイタリア・スペインを中心としたバロック美術が起こる。18世紀
フランスの新古典主義、ドイツのロマン主義、19世紀中頃写実主義、19世紀後半印象派、20世紀フォービズム、キュビズム、抽象絵画、シュールレアリズ
ムへ展開。
・日本美術はBC10世紀まで縄文文化、AD3世紀まで弥生文化(銅鐸)、6世紀まで古墳文化、9世紀まで飛鳥・奈良美術、
13世紀まで平安美術、14世紀まで鎌倉美術、16世紀まで南北朝・室町美術、17世紀初頭まで安土桃山芸術、19世紀中頃
まで江戸美術、20世紀初頭まで明治美術、21世紀初頭以降大正・昭和美術へ展開。
・日本美術は、和漢融合、和洋融合を経て、多様化・多極化の時代を迎えている。その中で、日本美術を再発見し、深める
取り組みが大切。日本美術の流れは企業経営でも同様で、日本企業としての強みの再発見と革新と伝承の仕組みづくり
が重要。
(文責:小野瀬由一)
小野瀬由一@KMSJアート部会
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